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2006/11/08

狼花 新宿鮫Ⅸ

 通勤時間が短くなったため暫く書籍を読む機会がなかった。いや、仕事上で必要なものは読むのだが、心底楽しんで趣味で読む機会がなかった。オレは中毒患者なのでこのままでは死んでしまう。ふと通勤途中の地下鉄の吊り広告で本作の刊行を知り、すぐさま書店へ飛び込んだ次第。1人で呑み屋に入り(珍しい!)あるいは自宅で――結局2日かからずに読破してしまった。

 さて本作は大沢在昌「新宿鮫」シリーズの9作目にあたる。オレは大沢作品を色々読んだが、残念ながらどれもこれも愚作ばかり。唯一の例外にして最高傑作だと思っているのが本シリーズだ。人間、何かとりえがあるもんである。第1作「新宿鮫~眠らない街~」の刊行が1990年のことだから、実に16年目。しかも前作刊行から2年半も待たされた。他の作品なんかどうでもいいから本シリーズに専念してはどうか。ほとんどそんな気持である。

 警視庁新宿署の生活安全課(シリーズ当初は防犯課。途中で機構改革があったのである)に勤務する鮫島は、単に名前からだけでなく、「喰らいついたら離さない」意味から「新宿鮫」と呼ばれ、恐れられる存在。だが、それは暴力団社会などに対してだけのもので、署内というか日本の刑事警察組織全体からは、むしろ煙たがられる存在だ。階級は警部。これはシリーズ開始当初から今日まで、一切変更がない。何故なら鮫島は、全国にわずか500人しか存在しないキャリア警察官僚であるにもかかわらず、ある理由から出世の道を閉ざされたばかりか、日本の警察署のなかでも最も激戦区と云われる新宿署の最前線に配置されているからだ。しかも他に例のない単独捜査官ではあるが、重要犯罪検挙率で常に新宿署トップをはしるという特異な存在でもある。
 ここまで書くと、何かマンガ的なものを思い浮かべるかもしれない。確かに設定は非常に稚拙なのだが、そうは思わせないような話の運び方になっている。1つには本シリーズが、常に日本の刑事警察機構あるいは犯罪の最新事情を巧みに取り入れている点にある。そこが稚拙な設定に、奇妙なリアリティをもたらしている。

 1作目「新宿鮫~眠らない街~」は、紹介編ながら、何せ当の作者はこれほど長大なシリーズになるとは予期していなかったものだから、何もかもをもてんこ盛りにしている。メインになるのは密造銃というか改造銃の話だ。「毒猿 新宿鮫Ⅱ」は台湾の暗殺者、「屍蘭 新宿鮫Ⅲ」は売春、堕胎児売買、劇薬、「無間人形 新宿鮫Ⅳ」は新型覚醒剤、厚生省(当時)の麻薬取締官、「炎蛹 新宿鮫Ⅴ」は農林水産省の植物防疫官、放火、東京消防庁、「氷舞 新宿鮫Ⅵ」は公安、CIAと、実に多彩な犯罪を素材に盛り込んでいる。
 鮫島の恋人でロック歌手の晶、鮫島の上司である新宿署生活安全課の課長・桃井、同僚の鑑識係で銃の弾道検査にかけてはピカいちの藪といったあたりが「味方」側のレギュラー・キャラクター。これ以外に、鮫島と同期のキャリアながら鮫島を敵対視する香田は、1作目から常にアンチ・キャラクターだったのだが、第7作「氷舞」を転機に方向性を変え始める。以降の作品は準レギュラー・キャラクターの運命が転じていくドラマチックな展開が主軸になる。まず「灰夜 新宿鮫Ⅶ」は、実は刊行順が次作の後なのだが、鮫島が初めて新宿以外を舞台に活躍する話。その過去、上層部が手出しできない暗部にほんの少しだけメスが入る。「風化水脈 新宿鮫Ⅷ」は大規模な高級車両窃盗団を追う話なのだが、一転して新宿の歴史にまで踏み込む一方、第1作で鮫島が「あいつは大物になる」と評したヤクザ・真壁の「決着編」にあたる。

 そして本作だ。第5作「炎蛹」で初登場した謎の犯罪者、ロベルト村上または仙田あるいは深見とも名乗る人物の「決着編」ではあるが、長いこと準キャラであり続けた香田の「決着編」であると同時に、シリーズ全体の方向性としてもターニングポイントにあたる作品だ。麻薬と売春、公安とCIAが錯綜する話だが、基本的なネタは「盗品の市場」という非常に斬新なアイデアに成り立っている。

 そもそも本シリーズを通して読んでいくと、新宿における暴力団の勢力図がどのような変遷を遂げたかが明確に浮かび上がってくる。これは犯罪の質の変遷とも重なる。もちろん小説に書かれた頃には状況が変わっているのだろうが、ある種の民俗風俗小説としての楽しみ方もできよう。

 もちろん、それだけではなく、本作というか本シリーズの場合、個々のキャラクターの魅力が非常に際だっている点が、全体の魅力を向上させている。特に本作では、第2作「毒猿」の際と似たような境遇に置かれる女性が登場するのだが、その行く末は大きく異なる。そこにも、キャラクターそのものもさることながら、時代背景の変遷が色濃く影響している。
 何せ第1作の重要な小道具の1つに携帯電話があるのだが、今の携帯電話ではなく、肩からかけるデカいやつだ。いかに本シリーズが長く続いているか分かろうというものだ。

 第1作が真田広之(ぷぷ)主演で一度だけ映画化されているほか、数作が舘ひろし(爆)主演でNHKドラマ化されている。残念ながらどちらもヒットにはほど遠かったし、内容的にも首をかしげたくなるものではあったが、少なくとも制作者が映像化したいと考える作品であることに間違いはない。

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