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2007/01/13

ユナイテッド93

 見逃した作品をDVDでカバーしようシリーズ。

 9.11から5年。去年は関連作が2本(本作と『ワールド・トレード・センター』)公開されたが、実のところオレは最初からそんなものを観る気はさらさらなかった。エンターテイメントのネタとしてあの事件を扱うのは、人間として許されることではないと思っていた。少なくとも何十年も経った後になって歴史上の事件として扱うならともかく、わずか5年では生々しすぎると思っていたし、ましてや「映画を作ったことのないオリバー・ストーン」作品(『ワールド・オレード・センター』)など最初から除外していた。ところが耳をふさぐと情報は入ってくるもので、本作についてはちょっと事後の見方が変わってきた。それは、例えば事件に対するアプローチの仕方(ぶつけられた後の地上側の混乱という〝こちら〟側の反応ではなく、ぶつける側、しかも唯一目的地に到達しなかった機体の内部劇を描こうとする姿勢)、地上側(管制官など)に本人の出演が一部あるなど、関係者の了解をとりつけていたこと、乗員・乗客全員に対する取材と了解は当然のこととして、案じる役者を可能な限りマイナーな人でキャスティングした上、役者自身が演じた人の遺族と一度は対面していること――などだ。つまりは、誰よりも遺族自身が映画化に賛成している(一部、例外はあるらしい)ことからすれば、むしろ本作を見るのはオレの義務ではないかと考え始めたのだ。その理由については後述するが、さすがに劇場で見なくとも、後に機会あれば見ようとは考えていた。それがようやく叶った。

 9.11事件は、云うまでもなく2001年9月11日にアメリカ国内で引き起こされたテロ事件である。計19名の実行犯によってハイジャックされた4機の旅客機が、アメリカ国内の複数の地上施設めがけて意図的に激突あるいは墜落し、多数の犠牲者を出した事件だ。その後のイラク戦争のきっかけになった点は別にして、ここでは事件のみに言及しておく。
 ハイジャックされた4機の乗客乗員は、実行犯も含め全員死亡している。うち、ニューヨークのワールド・トレード・センターに激突したのは2機。1機は、ボストン発ロサンゼルス行きアメリカン航空11便(ボーイング767-200・N334AA、乗客81名・乗員11名)で、午前7時54分に遅延出発、午前8時46分に激突している。もう1機は、ボストン・ローガン空港発、ロサンゼルス行きユナイテッド航空175便(ボーイング767-200・N612UA、乗客56名・乗員9名)で、午前8時14分に遅延出発、午前9時3分に激突した。残る2機のうち1機は、ワシントンD.C.(ダレス国際空港)発ロサンゼルス行きアメリカン航空77便(ボーイング757-200:N644AA、乗客58名・乗員6名)で、午前8時20分に出発、午前9時38分に墜落激突した先はペンタゴン(アメリカ国防総省本庁舎)だった。
 そして最後の1機が、ニューヨーク(ニューアーク空港)発サンフランシスコ行きユナイテッド航空93便(ボーイング757-200、N591UA、乗客37名・乗員7名)だ。

 ユナイテッド航空93便は、定刻から遅れること実に41分、午前8時42分に離陸していることからすると、ほぼその直後に最初の1機(アメリカン航空11便)がワールド・トレード・センターに激突していることになる。
 しかしユナイテッド航空93便をハイジャックした実行犯は、どうやらホワイトハウスまたは合衆国議会議事堂(ともにワシントンD.C.)への激突をめざしていたとみられているが、その目的は達成されず、午前10時3分、ペンシルバニア州シャンクスヴィル(ワシントンD.C.の北西240km)に墜落している。原因は、乗員・乗客たちがハイジャッカーに反撃したためと考えられている。

 本作は、ユナイテッド航空93便がニューアーク空港を離陸し、シャンクスヴィルに墜落するまでを、機内、管制塔、航空管制センター、軍の間をめまぐるしくシーン割りしながら描き出した作品である。全編、ハンディ(もしくはハンディ風のカメラワーク)で照明を使わない自然光のみ(あるいはそう見える照明)、いわゆるドキュメンタリータッチで描いている。

 監督のポール・グリーングラスの名を「ボーン・スプレマシー」でしか知らなかったオレは、正直なところちょっと観るのを躊躇していた。「ボーン・アイデンティティー」に比べれば決して出来の良い作品とは思えなかったからだが、考えてみれば彼はそれ以前に「ブラディ・サンデー」でドキュメンタリータッチは経験済みであり、しかも同作はかなり高い評価を得ている(ベルリン映画祭で金熊賞を受賞)。本作を観て思ったのは、グリーングラスは「ボーン・スプレマシー」ではなく「ブラディ・サンデー」が本来的であり、故に本作こそ彼にとって王道ではないか、との感慨だった。

 ともかく、息をつけない。

 全編非常に息苦しい。常に緊迫したシーンばかりが続き、決して緩むということがない。よく演出には「緩急」の基本が云われるが、その意味では完全なセオリー無視と云っていいが、決して不快なものではない。1つには、観客側が物語の展開を最初から知っていることもあるが、やはりそれはドキュメンタリータッチという演出手法にあるのだろう。
 例えば最初にアメリカン航空11便が激突する瞬間は、直接描かない。レーダー上から輝点(ブリップ)が消えるだけの映像だ。さすがに2機目(ユナイテッド航空175便)が激突する瞬間は、例のCNNのニュース映像を流用しているが、それとてツインタワーの向こうに機影が隠れ、次の瞬間に爆発する(しかも無音)映像であって、正確に激突の瞬間を捉えた映像を明らかに避けている。遺族への配慮の結果だろうが、それがまた逆にドキュメンタリー感をかきたてている。
 あえて難点をあげるなら音楽だ。極端なことを云えば、これだけグイグイ引っ張っていく力があるのであれば、音楽は不要だ。ところがハイジャックが始まる前から緊迫した曲で盛り上げるのは興ざめも甚だしい。まぁ演出が緊迫し続けているのでさほど気にはならないが。

 とはいえ本作は、あくまでドキュメンタリータッチなのであって、完全なドキュメンタリーではない。事故調査によって、本作の公開後に明らかになった事実もあるためだが、恐らくは意図的に小さな事実を曲げた部分も散見できる。乗客たちの一部が航空機電話で家族と連絡をとった事実は同じだが、最終的に反撃に出た乗客たちがコクピットに侵入、操縦桿をハイジャッカーから奪いとる寸前に墜落したかのように描かれている。実際には事故調査結果から、そこまでは成功していないであろうことが推測されている。また管制官らの証言によると実行犯がハイジャック機をワシントンに向けたことを通告しているのだが、本作ではそうした描写がない。もちろん、本作がエンターテイメントであってドキュメンタリーでない以上、大した問題ではない。

 ただ考え込まされてしまったのは、これがエンターテイメントと呼べるのか、あるいはエンターテイメントであっていいのかという点だ。実はオレはかつてある航空機墜落事故の現場を目の当たりにした経験がある。告白すると、以来、飛行機が苦手ではないが、機内の雰囲気はあまり好きではない。つい思い出したり想像したりしてしまうからだ。そうした立場から、遺族が賛成しているのであれば本作を観る義務がオレにはあると思ったし、上記の命題は結構深刻なのだ。あくまで個人的なものではあるが。

 本作は、決して薦めないが、出来は間違いなく良い作品だ。ただしオレは今回、どうしても点数をつけることができなかった。

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