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2007/02/21

墨攻

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 18日(日)、都知事命令による戒厳令下にある東京・有楽町は丸の内ピカデリー1にて鑑賞した2本目。今回は「環境問題」もなく楽しめた。

 紀元前370年頃、すなわち春秋戦国時代の中国が舞台。当時、斉、燕、韓、魏、趙、秦、楚の7雄が互いに殺戮を繰り返していた時代(後に秦が統一し、始皇帝が誕生するのだが、それ以前の戦乱の時代)、燕へ攻め入ろうとしていた趙が、途中の要衝の地にある小国・梁の城市を蹴散らそうとしていた。そこへたった1人で割って入ったのが墨家の革離(かくり)だった。果たして革離は、たった1人で梁城を守りきることができるのか――。

 7雄の春秋戦国時代はもちろん歴史上の事実だが、梁は架空の城市。墨家というのは存在したらしいが、どうもハッキリしない。この時代の諸子百家は有名な事実だが、儒家(孔子や孟子)、道家(老子や荘子)、法家(韓非など)、兵家(孫子など)は有名でも、墨家はややマイナーな存在だ。祖は墨子。兼愛、非攻、天志、明鬼、尚賢、尚同、節用、節葬、非楽、非命の十論を掲げた思想家で、大国による侵略と併呑ではなく、複数の小国の均衡した力関係を望んだ。故に侵略される小国を救う(これを墨守という)こともしばしばだったという。だったというのは、そもそも様々な文献に墨家は登場するものの、正確にその生誕、3代目・孟勝のその後を記した文献が存在しないため、定説が存在しない。

 こんなマイナーな中国の歴史ドラマを最初に発想したのは、驚くことに日本人である。酒見賢一。「後宮小説」で第1回ファンタジー・ノベル大賞を受賞してデビューした彼が3作目として描いた短編が、本作の大元である。ただし本作が原作としているのは、酒見賢一ではない。酒見賢一の短編小説を下敷きに森秀樹が書いた同名コミック(脚本・久保田千太郎)が、直接の原作になる。オレは単行本こそ持っていないが、小学館「ビッグコミック」誌に連載されていた当時はすべて読んでいた(はずだ。内容はほとんど憶えていないが)。
 酒見賢一の短編が、趙から梁を守る革離の姿だけを描いていたのに対し、森秀樹のコミックは「その後の革離」に発展していく。
 その後、原作コミックは中国語に翻訳され、香港で発売される。これを目にしたのが本作の監督・脚本、ジェイコブ・チャンで、彼はすぐさま小学館から映画化権を買い取る。そこから数えて本作の完成までは、実に9年の歳月を必要とした。
 果たして出来あがった本作は、スタッフ・キャストに日本、中国、台湾、韓国から人間が結集している。考えてみれば、古代中国の物語が日本で最初に綴られ、再び中国にわたって映像化、しかも近隣各国の人間が複数かかわっているという、非常に数奇な運命を辿った作品であると云えよう。

 本作の脚本は、映像化にあたって原作コミックを再び改変する作業に取り組んでいる。結果、むしろ原原作短編に近い構成となった。
 原作コミックでは、墨家も3代目・孟勝の時代に入っており、やや思想に翳りがみえてくるあたりが大きな背景としてあった。故に革離も、決して墨家に命じられて梁を守りに来るのではなく、云わば義侠心に駆られて(むしろ墨家に背き)たった1人でやってくる。つまり「墨守」すべき者が「墨攻」(これは酒見賢一の造語)してしまっている点に、重大なテーマ性が秘められているわけだ。このあたりの事情は本作でも描かれているが、物語のベースになっているというより、さらっと流した感じ。まぁ1つの物語を単体で描くのだから、これで正解なのだろう。
 その代わり本作では、原作コミックにないキャラクターを登場させている。単純に革離が梁を守る話に終わっておらず、ラスト近くになって二転三転する(これは原作コミックも同様)。そのための仕掛けとして、何人かのオリジナルキャラクターを登場させているという趣向だ。

 趙に攻め込まれた梁の梁王は当初、即座に降伏しようとするのだが、そこへ革離がたった1人で現れ、1本の矢を射っただけで一旦は趙軍を退かせてしまう。梁王から近衛軍を除く梁全軍の指揮権を委譲された革離は、そこから着々と防御戦の準備を始める。

 何より革離を演じたアンディ・ラウ(香港)には驚かされた。原作コミックの髭面スキンヘッドこそ実現しなかったし、やや年齢設定が低くなってはいるが、そんなことを忘れさせてくれるほど重厚な演技になっている。
 革離と相対する趙の将軍、巷淹中にアン・ソンギ(韓国)。梁の近衛騎馬隊の隊長、東伯の娘、逸悦にファン・ビンビン(中国)。これが原作に全くないキャラクターで、中国映画らしくアンディ・ラウの相手役になるのだが、うまく鼻につかない構成になっている。ある種、革離の弱さを象徴するキャラクターとして描かれるのだ。梁王にワン・チーウェン(中国)、その息子、梁適にチェ・シウォン(韓国)。梁の弓の名手として革離に抜擢される子団にウー・チーロン(台湾)。このあたりの若い役者はそれぞれのアイドル歌手なんかだそうだが、ちゃんとした演技してるところが嬉しい。
 ……ただ、ここまでは最近のアジア映画になじみのないオレにとってはマイナーな話。脇役に観た顔があったのが嬉しかった。梁王に余計なことばかり進言する司徒(文官のトップ)にウー・マ(中国)。中国映画では大ベテランで、「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」の道士役なんかが記憶にある。梁の近衛騎馬隊の隊長、東伯(つまり逸悦の父親)にユー・チェンフィ(中国)。「少林寺」リー・リンチェイ(ジェット・リー)の敵役だったが、それより何より中国武術界ではもはや生ける伝説の人物である。梁王に忠実な将軍、牛子張にチン・シウホウ(中国)。趙の若い将軍、高賀用にサミー・ハン(香港)。知らなかったがサモ・ハン・キンポーの三男だそうな。
 日本からは、大林宣彦と尾道三部作などで組んでいた阪本善尚が撮影監督として参加しており、川井憲次(パトレイバーなど)が音楽を担当している。

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