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2007/03/18

忠臣蔵~いのち燃ゆるとき~

 新聞の折り込みチラシに月一度、いろんなチケットの無料招待券の申込み一覧がついてくる。入っていた日に連絡(申込み)すると、先着順でチケットが手に入るわけだ。芝居、歌舞伎、映画、野球などなど。本来であれば映画のチケットをゲットするのだが、このときは有効範囲内にめぼしい作品がなかった。で、目にとまったのが本作だ。何せキャスティングが凄かったので、一度こういうじじむさい芝居を観てやろうということになった。果たして当選したはいいのだが、当選したのは入場引換券であって、実際に観劇するためには、指定席券と引き替えなければならない。引き替えてくれるのは昼日中、劇場窓口でのみ。故にうちの奥さんが1人でトコトコ出かけていって引き替えてきてくれた。劇場をグルグル回るほど行列ができていて、しかもその行列はばばむさかったそうな。

 何はともあれ17日、東京・人形町は明治座へ、本作の「夜の部」を観に行ってきた。

 携帯で撮ったんだがボケボケだな。もっと和風の建築をイメージしてたんだが、単なるビルじゃねぇか。でも内部は凄い。舞台を中心に客席は3階席まであるのだが、客席そのものが傾斜している(舞台に向かってスリバチ状に降りていく感じ)ため、1階席あたり2フロアある。オレらの席は2階席の上のほうだったので、つまり4階まで上がっていかないといけない(さらに上がある)。客席の外、ロビーにあたる部分には、各フロアごとやたらとテンポが並び、食堂まで常設されている。上り下りにはエスカレータがあるが、おっちゃんおばちゃんで埋め尽くされているので移動には階段のほうが便利。
 客層は明らかにオレの年齢より上が平均とみた。「色」がじじばばむさい。着物(男性も)がチラホラ。たまにミニスカのおねいちゃんとかも見かけるが、浮いてること浮いてること。たまたま前日に行った某新橋の自称高級クラブのママによると、ジーンズなんかで観に行くようなとこではないのだそうだ。オレなんか背広きてっちゃったよ。まぁ仕事着だが。

 オレらの席から観た舞台(開演前)。またもやボケボケだが雰囲気は分かるでしょ? 2階席もこのへんまで来ると傾斜がかなりキツくなっていて、前に人がいても見えなくなるってことはない。舞台下手に花道があって、そこから出入りする役者もいるのだが、さすがに2階席からでは見えない。でも花道を使うときだけ、左右にあるモニターに正面からの映像が流れる(とういことに芝居も半ばになって気づいた)。

 さて、ようやく本題である。

 本作は、昨年1月に亡くなった明治座の三田政吉会長(元社長)に対する追善公演として企画された。何でも、本人が最も好きな芝居が忠臣蔵で、みんなで演ってくれというのが遺言だったのだそうだ(某新橋の自称高級クラブのママ証言)。故にこの時期に季節外れの忠臣蔵という題材が選ばれたという。三田会長にお世話になった役者は沢山いて、西郷輝彦、藤田まこと、松平健、三田佳子と、普段なら座長クラスの役者が4人も揃った。ほかにも赤木春恵、淡島千景、音無美紀子、小林綾子、波乃久里子、野村真美、林与一、松村雄基、松山政路、山崎銀之丞、横内正……キリがないが、ともかく名前だけは見知っているベテランばかりが並ぶ。しかも3~4月の公演というのは異例の長丁場なのだそうだ。

 こういうメンツをみると、西郷輝彦が大石内蔵助で、藤田まことが吉良上野介で、松平健が浅野内匠頭――と想像していたのだが、全然違った(1人もあってない)。宮川一郎(作)と石井ふく子(演出)は、どうせ追善公演をやるなら「今までなかった忠臣蔵を」と考えたらしい。
 物語は元禄15年(1703年)秋から始まる。松の廊下も何もかもナレーション(石坂浩二)ですっとばし、お沙汰待ちで焦っている赤穂浪士たち、というシチュエーションからだ。したがって浅野内匠頭は話の上だけで一切登場しない。
 大石内蔵助を松平健、その妻おりくを三田佳子、四十七士の一番隊組頭・堀部安兵衛に西郷輝彦というキャスティング。吉良上野介は林与一、藤田まことは仕立て屋ひょう六なる人物(後述)を演じる。
 忠臣蔵の物語は誰でも知ってるだろうから置いておく。ここで触れたいのは、史実にも今までのフィクションにも描かれなかった、宮川・石井オリジナルのエピソードだ。
 例えば吉良上野介には双子の弟・右近(林与一の2役)がいて、吉良の妻・綾の方(淡島千景)が右近を上野介の影武者に仕立てようと画策する。上野介と勘違いした赤穂の若手浪士らが右近を討とうとするが、それをかばった右近の姉おしの(赤木春恵)が殺されてしまい、右近は命の尊さに目覚める。このへんの件り、非常に面白い。
 綾の方はさらに、敵・赤穂藩の内情を探るため、堀部安兵衛が仕切っている道場に自らの手の内の者を間者として潜り込ませようとする。これが上野介の家来の1人で、女剣士の三輪(野村真美)。「三輪之助」なる名前で潜り込もうとする(これはかなり苦しい)のだが、堀部安兵衛に惚れ込んでしまい、しかも安兵衛に正体を見抜かれ、同じ上野介の家来の1人・清水一学(松村雄基)に連れ戻される。このへん、大変な悲恋物語になっている。
 一方、前原伊助(松山政路)ら赤穂の若い浪士たちにも動きがある。伊助とその姉・一富(音無美紀子)がそば屋を経営しているのだが、これが赤穂若手浪士らの隠れ家。屋根の上の外窓を外し、彼方に見える吉良邸を監視し続けている。そこへお調べに入る同心・新藤永四郎(黒部進)とのやりとりがなかなか楽しい。
 前原伊助と同じ赤穂若手浪士の1人である毛利小平太(山崎銀之丞)は、単身吉良邸内に雇われ人として潜入、女中頭おみつ(小林綾子)と知り合い、まんまと恋仲になる。実はおみつは吉良邸を設計した大工の棟梁の娘で、敵の目を欺くため増改築を繰り返す吉良邸の最新の絵図面を手に入れたかったのだ。しかし毛利小平太とおみつは真に恋仲となってしまい、小平太は絵図面を手に入れる代わり、討ち入りには参加せず、おみつと駆け落ちする道を選ぶ。確かこのへんの話は岡野金衛門とお鈴のエピソード(実際には討ち入り前夜に金衛門がお鈴と酒宴していたため討ち入りに間に合わなかった、という話)だったはずだが、なんで毛利小平太とおみつの話になってるのかは不明。
 藤田まこと演じるところの仕立て屋ひょう六とは、その名の通り装束を仕立てることを生業にしている人物。大石内蔵助から直々に頼まれ、赤穂四十七士の装束を仕立てる。それは真夜中に集団で移動しても怪しまれないよう、火事装束に見立てた衣装だった。内蔵助ら赤穂浪士の義に惚れ込んだひょう六は、無償をこの仕事を引き受けるが、それを怪しんだ同心・新藤永四郎がここでもお調べに現れる。ところがひょう六の妻で舞の師匠のお嶋(波乃久里子)が機転を利かせ、お千代(渋谷飛鳥)ら弟子とともに舞で驚かし永四郎を追い返してしまう。このへんが一番笑いを誘うシーンだ。
 さらに肝心の大石内蔵助とおりくのエピソードにも、オリジナルの味が付け加えられている。討ち入り直前、おりくは堀部道場に元服したばかりの息子・大石主税(ジャニーズJr.の東新良和)を訪ね、別離を惜しむのである。

 話として軽んじられがちな吉良側にも光を当てており、そこは新鮮。座長クラス4枚看板は、いずれも初登場の際拍手を浴びるが、最も大きいのは藤田まこと。なおかつ藤田まことは、最も芝居が自然で楽しい(まぁ役柄のせいもあるが)。松平健は、さすがに出てくると画が締まるし、暗転直前の一言だけの独白科白というパターンが多いため、印象にも残る。西郷輝彦は殺陣(へたくそだが)のキメ方がいい。こういうのは様式美だからね。
 唯一首をかしげてしまったのが三田佳子。芝居が大袈裟すぎるし、正直眠気を誘う。まぁこれは脚本にも問題があるのだろうが、最後、赤穂浪士全員が切腹となって後、江戸を立ち去る直前に、この芝居の最大のテーマを語るのだが、そこで大袈裟にやられてしまうと、興ざめしてしまう。せっかくいいテーマなんだがなあ。

 忠臣蔵という単語からして、主君の仇を討つことを美と賞賛するところから始まっているわけだが、だからといって吉良方が勧善懲悪だったわけではあるまい(フィクションとしてはそれでもいいが)。それに討ち入りそのものは美でもいいが、どうせ全員切腹を命じられるところは一緒なのだ。そこを本作では、十分に認めた上で、残された者は生きなければならないと説く(実際にりくは70代まで生きたらしい)。そのテーマは非常に重たい。

 3幕12場(4-5-3)。1幕1時間ずつの芝居だから正味3時間なのだが、30分ずつの幕間が2回入るので計4時間。幕間になるとみんな一斉に食堂へ向かうか、持ってきたお弁当を広げる。かくいう当家も自宅で握ってきたオニギリを頬張る。たまにはこういうのもいいな。

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