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2007/04/20

肉体秘書 パンスト濡らして

 ひでぇタイトルだろ? でも本作をあなどるなかれ。
 数年前、ホモの比較的少ない劇場(都内では唯一新橋)で鑑賞。

 ファースト・ショットはオレンジ色のバッグを小脇に抱えて都庁前の歩道を歩くオレンジ色の髪の女の後ろ姿。
 一方で団地らしき建物の前に立つ主婦の顔のアップ。対して、やる気なさそうな刑事たちは若干ロング(気持ちの違いが距離感に出ているわけだ)。両者の会話から、どうやら主婦は自分の一人暮らしのおばぁちゃんが詐欺にあったことを訴えているらしいことが分かる。犯人は家政婦。
 ホテルの一室。オレンジ色の髪の女が入ってくる。小脇に抱えていたバッグを開けると中には大金。
 刑事たちも家政婦を派遣した会社を訪ねているが、当該家政婦はすでに退職した後。「警察は何やってんのよ」と主婦は憤慨するが、刑事たちは「家政婦が派遣会社を転々とするのはよくあること」と取り合わない。「一応、被害届け出しときます?」ほとんど義務感だけで刑事は懐から写真を取り出す。「一応、確認してください。犯人の家政婦ってこの人でしょ」受け取った主婦は憤慨する。「こんな女じゃないわよ!」
 再びホテルの一室。洗面所で髪を洗い流す。流れていく水はオレンジ色。鏡の向こうに黒髪の女が出現している。

 分かる人には分かるが、これってアルフレッド・ヒッチコックの「マーニー」である。「マーニー」ってのは、ヒッチコックらしさがよく出ていた作品で、長回しやらサイケっぽい絵柄やらが連続する。本作ではそこを(恐らくは予算上の制約から)敬遠し、ストーリーラインだけで補おうと努力し、しかもそれが驚くことに成功している。

 「密室」に戻った黒髪の女。仮面を被った男女に促され、「支部長」なる人物に奪った現金を献上する。「支部長」は現金の額を見て黒髪の女を褒め、「ご褒美」を与える。仮面の男がのしかかる。
 それを見ていた「支部長」と仮面の女、「そろそろ職場を変えさせたほうがいい」と会話している。
 つまり新興宗教か何か知らないが、何やら謎の組織があって、「本来不浄な金銭」を奪取し、「この国のために浄化する」ものらしい。そのための工作員が黒髪の女というわけだ。
 自宅に戻った黒髪の女。熱心に就職情報誌を見ている。ルームメイトの看護師、そのカレシとの会話から、黒髪の女と看護師は今の自宅を探していた不動産屋で出逢い、「とても見ていられない」(看護師)からルームメイトになったこと、黒髪の女は対人恐怖症で、ルームメイトらは何くれとなく世話をやいてくれていること、特に就職にあたっては看護師が「いつもみたいにテキトーに履歴書を書いて」おいてくれていることなどが分かる。
 看護師のカレシが「これなんかいいんじゃないか」と指さした就職雑誌には、「法律事務所の秘書」と書いてあった。
 弁護士・咲坂は、「民事専門ながらそこそこ小金を稼ぐ」タイプで、どうやら仕事はできそうだ。40代後半のバツイチ、商売女を買って適当に暮らしている。善くも悪くもない。
 あるとき咲坂は、秘書として黒髪の女、桜木亮子を採用する。ハキハキとした受け答えの真面目そうな女性。咲坂はほのかな好意を抱き始めていたが、その矢先、亮子は金庫の現金と小切手とともに行方をくらましてしまう。

 この亮子が金庫から盗み出す場面がなかなかにサスペンス。それ以前のカットで何度も咲坂の背後にある金庫がアップになる。故に、たまたま開けた机の引き出しに入っていたカギ束に観客の目をうまく誘導してくれる。
 またバックの音楽がいい。ギターの低い音だけで構成してるあたりが盛り上げる。亮子が物音にいちいち驚くのがなかなか。

 亮子の失踪に大きなショックを受けた咲坂だが、元カノの女探偵・竹宮ユイが亮子の正体をつきとめてくる。本名・中津川フユミをはじめ、何から何まで嘘だったことが分かる。最初に父親、後に母親を亡くしており、そのあたりに盗癖の原因がありそうだ。
 自宅に乗り込んだ咲坂、中津川フユミを問い詰めるが、フユミは「すべては『支部長』の指示によるもので、穢れた金を『組織』に納めることによって浄化しているのだ」と、憑かれたように主張する。

 ここでフユミは「支部長」の誘導によって咲坂を誘惑しようとするわけだが、「そうだ、その男はその服装が好みだ」という科白を挟むなら、フユミの全身を見せるカットを挟むのが定石だろう。咲坂いきなりおっぱい吸ってるし。

 結局のところフユミは統合失調症だということが判明。同情した咲坂は投薬療法を続けながら再び弁護士事務所で働くことを薦めるが、「支部長」からの電話を受け取ったフユミは再び暴走してしまう。
 「密室」のなか「支部長」の目の前で仮面の男女に拷問されそうになるところへ、咲坂が助けに入り、全ては幻覚だと看破する。
 仮面の男女はフユミのルームメイトとそのカレシ。フユミの統合失調症につけ込み、遊ぶカネほしさに「集金」させていたのだ。そして「支部長」とはフユミの幻覚そのものであり、その姿は――フユミが幼い頃に亡くした父親の姿そのものだった。
 気づくとフユミと咲坂、フユミのルームメイトとカレシがいたのは、フユミの自宅。

 かなり強引な展開ではあるが、観客の目からは、「支部長」の存在が実在なのかフユミの妄想なのか判別しにくい構成となっており、このあたりにうまさがある。オレなんか2度見て感心したくらいだ。最初からオチを知ってないと変な方向へ誘導されそうになる。
 最後に、まだ「支部長」の幻覚が見えるフユミに、咲坂は「薬を変えてもらおうか?」と持ちかけるが、フユミは穏やかな笑顔で首を振り、「お父さんが見守ってくれている――そう思うことにしました」と云いきる。
 なかなかにウェルメイドな作品になったものだ。
 特にフユミの両親の死に阪神・淡路大震災を絡ませるあたりがアイデア。フユミが父親の存在に気づいたときだけ関西弁になるところにアクセントをつけている。

 監督は波のある池島ゆたか。万年ダメダメの五代暁子が奇跡の脚本を書き上げた。ヒロインの池田こずえは、この業界の常としてAV女優の1回限りの主演。顔つきはブサイクではあるが、とても素人とは思えない狂乱の熱演。1回限りはもったいない。弁護士・咲坂にベテラン本多菊次朗。「善人キャラ」をちゃんと説明できる貴重な存在。ヒロインのルームメイトの看護婦に華沢レモン、そのカレシに樹かず。このへんはどうでもいい。ヒロインに悪事を命じる「支部長」に竹本泰志。最後の「見守ってくれている」表情が実にいい。咲坂の性格を説明するためのホテトル嬢に山口真里。女探偵を演じる佐々木麻由子は脱ぎなしの特別出演。

 さて、本作で濡れ場らしきシーンは、最初にフユミと仮面の男との「密室」での「ご褒美」、ホテトル嬢とやることで咲坂の性格を説明するシーン、フユミのルームメイトとそのカレシの世間話しながらのシーン(会話自体は最後のほうの伏線にもなっている)、咲坂を誘惑するフユミ――の4回くらい。ピンク映画としては回数が少ないし長さも短い。最も長いのが咲坂とホテトル嬢とのシークエンスだから、本筋とは関係ない。最後にフユミと咲坂が結ばれるシーンがあるのだが、これなんか完全に付け足し。
 全ての濡れ場を取り除いても本作は完全に成立する。そこに時間つかうくらいならもうちょっと説明してほしいカットすらある。でもそこは商品価値を下げられないので、仕方ないボリューム。工夫は随所にしていて、咲坂と竹宮ユイがフユミのことを話しているシーンの後ろに張ってある映画のポスターが「ブレードランナー」ってあたりがねー。

 ……な?(話を戻すけど)エロも恋愛も、それだけじゃ成立しないのよ。

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