« 東京白景17 | トップページ | 東京白景18 »

2009/06/01

スター・トレック

 ここまで過去を振り返る話が多いと、たまにはリアルタイムな話もやってみようという気になる。
 5月29日、すなわちロードショー初日の最終回に、東京・有楽町は丸の内ルーブルにて鑑賞。

 本作は「スター・トレック」の名称を冠してはいるが従来の「スタートレック」にあらず。どこが違うかというと「スター」と「トレック」の間に「・」があるか否か。
 ……いや、別にケナしているのではない。従来型スタートレックとは違うスター・トレックなのだということを、ちゃあんと説明しているのだ。126分かけて。この説明が実に見事。円谷プロの方々、どうせパラレルワールドをやりたいなら、これくらい見事な説明をしてみろ。
 巷の噂では「スタートレックという名のスターウォーズ」などという表現もなされているようだが、それはお互いに失礼というものだろう。全く異なる「SF映画」になっている。

 そもそも監督がJ・J・エイブラムスと聞いた瞬間に嫌な予感がしていたのだが、負の期待を裏切ってくれたのは嬉しい誤算だった。かつて日本のゴジラのような愛されるヒーローを作りたくて「クローバーフィールド~HAKAISHA~」を撮ったそうだが、そんな回りくどいことをしなくても自分の国の立派なヒーローをいじったほうがよほどいいじゃねぇか。よその国のことは放っといてくれ。

 従来スタートレックを全く知らなくても楽しめる作品ではあるのだが、上記の「説明」がちゃんとできてることを説明するためには、従来スタートレックに触れざるをえない。

 「スタートレック」は、3シーズン79話に及ぶアメリカのTVシリーズだ。日本では「宇宙大作戦」の名で放送されている(1話完結のためか、日本の放送順は本国と異なる)。
 23世紀半ば、地球とそれ以外の様々な生命体によって「惑星連邦」が形づくられている時代の話。惑星連邦は銀河系の1/4ほどカバーし、互いは友好的な関係にあるのだが、連邦に属さない非友好的な民族、例えばクリンゴンやロミュランといった種族もいること、銀河系の残り部分を探索する必要があることなどから、惑星連邦麾下には独立した軍隊「宇宙艦隊」が組織されている。「スタートレック」は、宇宙艦隊に所属する宇宙船USSエンタープライズ号が行った、5年間に及ぶ深宇宙探査の物語だ。
 SFドラマというと、まさしくスターウォーズのようなドンパチを思い浮かべる人が多いだろうが、スタートレックの場合、当時のTVシリーズの限界ということもあって、ほとんどドンパチが出てこない。その代わりといっては何だが、要は宇宙船内を舞台とした人間ドラマが展開する。
 船長のジェイムズ・T・カーク大佐(地球人、白人男性)以下、副長兼科学主任のスポック中佐(バルカン人と地球人のハーフ、男性)、軍医・医療主任のレナード・マッコイ少佐(地球人、白人男性)、機関主任のモンゴメリー・スコット少佐(地球人、英国紳士風)、主任パイロットのヒカル・スールー大尉(地球人、アジア系男性)、通信士官のウフーラ中尉(地球人、アフリカ系女性)、ナビゲーターのパベル・チェコフ少尉(地球人、スラブ系男性)といったところがメインキャスト(マッコイを除けばだいたいエンタープライスのブリッジにいる面々。どういうわけかマッコイもちょいちょいブリッジに顔を出す)。

 スタートレックのファンをトレッキーあるいはトラッキーと称するのは有名な話。彼らの熱意は製作サイドを動かし、ついにTVシリーズ終了から9年後、映画化として結実する。これが「スタートレック」(Star Trek: The Motion Picture) だ。TVシリーズのキャストをそのまま引っ張った映画版はその後、6作目まで作られるのだが、ここで重大な問題が発生する。キャストの高齢化である。そこで製作サイドは一大決心をする。すなわちキャストの総入れ替えである。
 TVシリーズの時代設定から約100年後、映画化作品から数えても70年後の世界を舞台に、後継艦エンタープライズ(正確に云うと初代から数えて5代目)の物語を始めた。これが第2TVシリーズにあたる「Star Trek: The Next Generation」(日本版タイトルは『新スタートレック』)で、何と7シーズン176話も続いた。ファンに受け容れられたのだ。受け容れられただけでなく、ファンは熱狂し、ここから新生スタートレックは新展開を見せ始める。1つは新たな映画化作品の誕生。4作品が作られた。もう1つはTVシリーズの後継。新スタートレックとほぼ同時期の世界観で、スピンオフ的な作品(エンタープライズがほとんど出てこない)「Star Trek: Deep Space Nine」(日本版タイトルは『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン』)が、やはり7シーズン176話つくられ、さらに新スタートレックの終了翌年からの世界観で、同じくスピンオフ的な作品(エンタープライズではなく別の宇宙船を舞台にしている)「Star Trek: Voyager」(日本版タイトルは『スタートレック:ヴォイジャー』)が7シーズン172話つくられた。
 ここまでは、ある種順風満帆だったのだが、次のTVシリーズから迷走を始める。「Enterprise」(日本版タイトル『スタートレック:エンタープライズ』)は、最初のTVシリーズの100年前が舞台。銀河連邦はまだなく、地球初の深宇宙探査船「エンタープライズ」NX-01の活躍を描く話なのだが、ストーリーがあまりにマニアックすぎて初心者がついていけず、そのマニアからしても最初のTVシリーズから一貫した同一時間軸上の物語であるため「未来」が分かっている話となりストーリーから緊張感を感じられず、また様々な矛盾を巻き起こしたりもした。直接的には視聴率低空飛行の結果、4シーズン98話をもって打ち切りと相成った。

 本国アメリカで「エンタープライズ」が打ち切りになったのは2005年5月。同じ年の8月になって、新映画がアナウンスされた。タイトルは仮題ながら「STAR TREK: THE BEGINNING」。「エンタープライズ」の2~3年後を舞台とした物語で、2007年夏の公開予定だったが、脚本がボツになり、映画化も見送られた。

 ようやく本作、J・J・エイブラムス監督による本作のアナウンスがあったのは、翌2006年のこと。このときは2008年夏の公開が予定されていたが、例の全米脚本家ストライキによって延期。1年後にようやく公開となった。

 さて、ようやく本作の話に戻れるわけだが、本作の物語は最初のTVシリーズの直前が舞台だ。生まれたときに父と死に別れたカークは、無鉄砲な青年。宇宙艦隊の士官、クリストファー・パイク大佐から、かつてカークの父が12分間だけ船長を務め、自らの命を犠牲にしてカーク自身を含め800人からの命を救った話を聞かされ、艦隊士官を志願するよう勧められる。パイク大佐は初代船長として、新造艦・USSエンタープライズを動かすが、船内にはカークが忍び込んでいた。

 ……すでに最初から違和感がある。最初のTVシリーズでカークの父は健在(そういう話が出てくる)だし、カーク自身は中佐になってからパイク船長のエンタープライズに赴任し、大佐昇進と同時に船長に就任したはず。それからパイクは2代目船長(カークは3代目。初代はロバート・エイプリル)だったはず。

 そう、本作は最初のTVシリーズから「ヴォイジャー」まで連綿と続く同一時間軸上の物語ではなく、異なる時間軸にある、云わばパラレル・ワールドの物語なのだ。
 そういえばスポックの性格がちょっとおかしいし、マッコイの愛称「ボーンズ」の由来も違う。スールーが妙に格闘技に通じているし、スコットが豪快すぎる。チェコフに至っては年齢が違いすぎるしロシア訛りがキツすぎる。それから何だ、あのセクシーすぎるウフーラは。もちろんエンタープライズのデザインも本家とは若干異なる。

 ――な~んてことは一部のマニアが考えれば済むことだ。そんなこととは無関係に本作を楽しむことができる。ただし、マニア側にも配慮していて、何で上記のようなパラレルワールドの物語にならざるをえなかったかが、ちゃんと説明されている。破綻ないように。ここが凄い。したがって本来シリーズとちょっとずつつかず離れずみたいな話になっているのが楽しめる。例えばコバヤシマルなんて、すっかり忘れてたけど思い出されたよ。

 キャストはどうでもいい。知らない若い子ばっかなんだもん。スタッフも知らないやつばっか。どうでもいいや。要は、これをもって真の意味で「新生スター・トレック」が始まったわけだ(すでに2作目の製作が決まっている)。

 ごく普通に映画を楽しみたい人に必見。

|

« 東京白景17 | トップページ | 東京白景18 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/162541/45772633

この記事へのトラックバック一覧です: スター・トレック:

« 東京白景17 | トップページ | 東京白景18 »